夜の子ども 2





 大通りをしばらく歩くと、公園に出た。走り回る子ども達を横目に真っ直ぐベ
ンチに向う。
 自由だ。江戸へ来てすぐに組織に入り、以来、監視下に置かれていたので、
ろくに出歩いたことがなかった。しかし今は時間だけはある。私は毎日のように
江戸の町を歩き回った。ターミナルまでの道順もすっかり覚えた。阻む相手は
いない。お金さえあれば、私はいつでもあのターミナルへ行き、チケットを購入
して故郷へ帰ることができる。とは言え、仕事がない。あの二人は、万事屋は
本当に貧乏だ。帰郷は気長に考えるしかない。
 子どもが三人で鬼ごっこをしている。悩みがなさそうでうらやましい。なけなし
のお金で買った酢こんぶをしがむ。
 ぶらぶらを歩き回っていて、昨日にこの公園を発見した。大きな公園で、噴
水があり、緑が多い。親子連れや子どもに紛れて、昼間なのに、見るからに幸
の薄そうなおっさんがいたりする。そういうのも何となく気に入った。そして木製
で白く塗られたベンチを見つけた。
 することもないし、お金もないので、ぼんやりとそこに座ってみれば、思いの
ほか居心地がよく、お腹が空いたなあと思ったら、いつの間にか夕方になって
いた。
 夕食はもやし炒めだった。質素だと漏らしたら、文句を言うなら食うなと銀髪
に殴られた。質素だけど、ごま油使ってて結構イケるんだよと眼鏡が横から言
った。そういえば万事屋に転がり込んだ日、銀髪が真っ先に言ったのは食事
についてだった。飯は当番制だから。俺、新八、神楽の順番な。異論は認めな
いと一方的に宣言した。料理なんて出来ないと反論すると、何かできるだろと
私の額を軽く突く。卵ご飯とふりかけご飯しか作ったことがない。事実を述べる
と、銀髪はそんだけできれば十分だろと鷹揚に言う。承諾するしかなかった。
仕方なく頷くと、銀髪は満足したように不敵な顔で笑って、今日は俺の当番なと
台所へ消えて行った。眼鏡がその後、私にそっと、銀さんの料理って美味しい
よと言った。まあ今はお金ないから、冷蔵庫にはロクなもんないんだけどとも小
声で付け足して。銀髪が作ったのは焼き飯だった。具はほとんどいなかった。
たまに何かよくわからない野菜のかけらがあったが、概ね具なしの焼いた飯だ
った。だけど、味は悪くなかった。
 ご飯のことを考えると自然にお腹が空いてくる。
 そろそろ帰ろうかと考えて、顔を上げるといつの間にか太陽はずいぶんと西
に傾いていた。
 腰を上げる。公園からもターミナルビルはよく見えた。
「そこのお前」
 ぼんやりと眺めていると、ふと声を掛けられた。三人して遊んでいた子どもの
うちの、太目の子どもだ。
「なにアルか」
 私はとっさにキッと睨んだ。
「昨日もいただろ」
「そうアルけど」
「明日もいるんなら、鬼ごっこしようぜ」
 太目が言うと、残りの二人が「よっちゃん」とその袖を引っ張った。二人が言
わんとしていることはわかる。私も太目の申し出にびっくりした。突然なにを言
い出すんだと目を瞠った。
「人数多い方が楽しいんだよ」
 よっちゃんと呼ばれた太目は、二人に向って言った。
「――いいアルか? 私、誘ったことを後悔するアルよ? 負けてないても知ら
ないアルよ」
 子どもっぽい遊びだけど、私は暇だし断る理由はない。私がせせら笑うとよっ
ちゃんが胸を張った。
「お前こそ泣くなよ。女だからって手加減ナシだぜ」
「こっちの科白アル」
「お前、名前は」
「神楽アル」
「神楽な」
 よっちゃんは私の名前を聞くと、自分も名乗った。すると残りの二人もおずお
ずと自分の名前を口にした。
「じゃあまた明日な」
「望むところアル」
「お前も早く帰れよ。もう夜になるぞ」
 よっちゃんは帰り際言った。じゃあね。神楽ちゃん。ばいばい。あとの二人も
口々に言うと、三人連れ立って帰って行った。
「私も帰るアル」
 返事があるわけでもないのに言ってみた。西日が眩しくて、光を遮るように傘
を傾けた。









20081116
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