つつみ込むように




 ソファーで寝そべっていると、
「銀さーん」
と台所から声がした。新八だった。
 ふわあと欠伸をしてのんびり伸びをしていると、再び「銀さーん」と呼ばれた。
「へいへい」
 銀時は鷹揚な仕草で起き上がる。のそのそと台所に向うと、新八が精一杯背伸
びをしながら棚の上の方に手を伸ばしていた。
「あー、銀さーん。上のホットプレート取って下さい」
 手足をプルプルさせながらも懸命に手を伸ばしているが、残念ながら少しばかり
届かない。
 惜しい。
(あと2センチ背が高かったらなあ)
 そんな様子を入口に突っ立ったまま観察していると、焦れたように新八が振り返
った。
「ちょっとー!ぼさっと見てないで手伝って下さいよ」
「え、ああ、分かった」
 軽く睨まれて、銀時は新八の真後ろまで近寄った。
「こんなん持ち出して何するんだ?」
「今日の夕食お好み焼きにしようかと思って」
 まな板の上にはキャベツの千切りがこんもりと乗っていた。
「なんかよ。最近粉もの多くねえか?」
 ついこの間の夕食は何故かホットケーキだった。そして今夜はお好み焼き。
「何かご不満でも?」
 凄い形相で睨まれる。ホットケーキが夕食だった時、不満を口にしてしまい新八
の逆鱗に触れた。二の舞は御免だ。
「んな訳ねえだろ。俺ほど粉ものを愛する男はいねえよ?まじよ。大まじ」
 銀時は咄嗟に取り繕って笑う。
 すると新八は溜息交じりに、
「粉ものは安上がりなんですよ。経済的なんです。ちょっと水大目にして溶いちゃえ
ば一杯焼けますよ」
「おう、そうだな。ウン。生活の知恵だな」
「こちとらやりくりに必死なんですよ」
 新八は腰に手を当てて大仰な溜息を吐く。
 何かもう、ごめんなさいって感じです。つまりは俺に稼ぎがあればいいんですね。
 銀時はぼりぼりと頭を掻いた。
 なるほど粉ものが続く理由は単純明快だった。
「それよりホットプレートだな?」
 居た堪れなくなり話題を変える。
「あ、はい。お願いします」
 新八は棚に向き直り、上を見上げた。
 背後からひょいと両手を伸ばしたその時である。銀時は、(おや?)と眉尻を上げ
た。
 新八が居心地悪そうに俯いている。
 棚と銀時にすっぽりと挟まってしまって、まるで拘束しているみたいだ。ちょっとか
らかってやろう。銀時は面白半分で棚に両手をついて、少し身を屈めた。
「ちょっと新八君。意識しないでくれる?」
 腕の中にいる新八の顔を覗き込んで揶揄する。 
 軽口を叩くと言い返してくるだろう。そんな予想に反し、新八は下を向いたまま無
言のままである。
(やべ。怒らせたか?)
 焦って、新八の肩を掴むと強引にこちらを向かせた。
「…んなのしてませんよ」
 声は微妙に掠れていた。戸惑うように向けられた視線。うっすらと上気した頬。
(そんな顔は反則だろうよ)
 困った。
――この両手は何のためにある?
 自分に問うてみる。
「…新八ぃ」
「な、何ですか」
 変な緊張感が漂っている。ここが台所だって忘れそうだ。
 新八は視線をキョロキョロと彷徨わせていた。ゴクリと生唾を飲む。
「あのさ」
「は、はい?」
「――こういう時はどうすればいいんだ?」
 相手に丸投げして、この場をやり過ごそうって魂胆です。最低なんです、俺。
「アハハ。ど、どうすればいいんでしょうねーー」
 二人してアハハと笑う。乾いた笑いだった。
 銀時は両手を棚から離す。「ホットプレート」と呟きながら上に手を伸ばした。少し
埃っぽい。銀時は「はい」とどこか呆けた様子の新八にホットプレートを手渡した。
「ありがとうございます」
「俺、豚玉ね」
「あ、はい」
 首をコキコキと鳴らしながら、台所から出て行く。
 ふと両手を眺めてみる。
 新八があの時「馬鹿ですか」っていつもと同じように怒ってくれりゃよかったのに。
(あー、参ったな)
 冗談じゃ終わらないかもしれない。

 この両手は何のためにあるんだ?
 







20060803



















































































































































































































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