それなりにずっと




 目を覚ましてもぞもぞと布団から這い出すと、なぜか素っ裸だった。
「ひゃっ!何コレ!」
 パンツすら履いていない。文字通り丸裸だ。思わず両手で胸の辺りを覆い隠して
みる。キョロキョロと室内を見渡すと、布団の脇に衣服がきちんと畳んで置かれて
いた。
「あったま痛え」
 ずきっとこめかみ辺りに痛みが走る。片手で頭を支え、大きく息を吐いた。呼気が
酒臭い。
(そいや、昨日は飲みすぎたな)
 昨日は町外れの屋台で安っぽい酒を呷った。たまたま居合わせた客となぜか意
気投合し、じゃんじゃん酒を酌み交わした。最後はなぜか飲み比べ状態になってい
た。兎にも角にもいい気分で酒を呷り続けていたのはうろ覚えではあるが覚えてい
る。だがそれ以上が全く以って記憶にない。
 どうやって帰ってきたのだ。しかもご丁寧に服まで畳むなんて。
「いやはや、動物の帰巣本能には驚かされるな」
 ウンウンと一人納得していると、布団の中で何かがもそりとうごめいた。
「ちょっと、銀さんうるさいですよ」
「!?」
 びっくりして硬直したまま、視線を布団に集中させる。すると、中から新八がもそも
そと顔を出した。
「ぎゃあ!おめー何で人の布団にいるんだ!?夜這いか!?」
 腰を抜かすかと思った。自分が裸なのをハッと思い出して布団を手繰り寄せた。
当の新八は至極冷静にゆっくりと上半身を起こして、のん気に欠伸なんぞをしてい
る。
「うるさいですよ」
 新八が大仰な溜息を吐いた。浴衣姿だった。新八までも素っ裸ではないことにと
りあえず安堵した。
「銀さん、あんたまだ酔っ払ってるんですか?ここは僕の部屋なんですけど」
「へ?」
 指摘されて、よくよく室内を見渡せば確かにそこは自室ではなかった。
(え!?ていうことは俺が夜這い!?)
 サアッと血の気が引く。
「ホント、昨日はめちゃくちゃでしたよ。夜中にいきなり部屋入ってきて。無理やりな
んですもん」
 伸びをしながら新八が言う。
 新八の台詞に益々青ざめた。
 ヤっちまったのか、どうしよう。新八の姉は何だかんだで弟を溺愛している。この
事実がばれたら半殺しにされるに違いない。
(いやいや、問題はそこじゃねえだろ)
 銀時は頭を振った。
 何よりも婿入り前の(恐らく)清らかな体を傷物にしてしまった。それが大問題だ。
「落ち着こう。俺」
 両方を叩いて、ブンブンと顔を左右に振る。二日酔いなんかすでにどこかへ吹っ
飛んでしまっていた。
「新八君」
「な、何ですか?」
 銀時は一度大きな深呼吸をして、新八に向き直った。新八の肩を両手で掴んで、
じっと見据える。
「体は痛くねえか?」
 深刻な顔で尋ねると、新八は戸惑いながらも「うーん」と唸った。
「そ、そうですねえ。ちょっと体痛いかも」
 痛い。新八の台詞にやっぱり、とそういう関係になってしまったことを確信する。
 「まあでも」と口を開きかけた新八を制止して、銀時は正座をすると、勢いよく土下
座した。
「ちょっ!ちょっと!銀さんどうしたんですか!?」
 びっくりして顔を覗き込もうとする新八に、
「責任取るから!一生傍にいるし、金には困るかもしれねえが、なるべく泣かせな
いように努力する」
布団に頭をこすり付けたまま一気に言った。しばらく沈黙が流れたが、ややあって
頭の上でぷっと新八が笑い出した。
「笑い事じゃねえだろ」
 頭を上げて新八を真剣な顔で嗜めた。すると「銀さん」と一頻り笑い終えた新八が
こちらを真っ直ぐ見据えた。
「それじゃ今とちっとも変わりませんよ」
 そう言うと枕元にあった眼鏡を掛けて笑った。
(違うと思ったら眼鏡)
 呆けたように新八を眺めていると、頭をぺしっと叩かれた。
「てッ!!」
 頭を押さえると、
「何か勘違いしてるみたいですけど、何もありませんよ。当たり前じゃないです
か!?昨夜は酔っ払って部屋間違えた銀さんが裸になって僕の布団に潜り込んで
きただけです。狭い布団に男二人で寝るんですよ?そりゃ体の節々も痛くなります」
 何もなかった。新八の台詞に一気に脱力する。
「何もなかったんだ?」
「当たり前でしょう?」
「ほんとにほんと?」
「くどい!当たり前だ!」
 今度は拳骨で殴られた。
「何だ〜〜〜。もう、びっくりしちゃうじゃねえかよ。新ちゃんよう」
 布団をぎゅっと抱き込んで寝転がった。右に左にとゴロゴロ転がりまわると、
「服着て下さい」
今更ながらに、うっすら顔を赤らめながら新八がずいっと着物を差し出した。
「ああ、ありがとね」
 礼を言って受け取ると、新八はすくっと立ち上がって「朝飯の支度ありますから」と
出て行ってしまった。
 のそのそと服を着ながら「何もなかったのか」とぼそりと呟いた。
 よかった。よかったんだけど。
(何だかなあ)
 そこでふと新八の言葉を思い出した。責任を取ると言った、あの時の――。
「まあでも一緒か」
 ずっと傍にいる。何があっても。何がなくても。
「あ、じゃあヤッておけばよかったか?」
 呟いてハッとした。
(俺ったら、今何て恐ろしいこと!!)
 違う違う、今のナシナシ。銀時は自分に釈明する。じたばたしていると、食欲をそ
そる香りが漂ってきた。
 味噌汁の匂いだ。
「ごはんですよおおーーー。みんな起きてくださーい」
 台所の方から新八の声がする。
「お腹すいたネ」
 バタバタと神楽の走る足音がする。
 いつもと同じ朝の風景だ。
「とりあえずめしめし」
 銀時はよいしょと立ち上がった。









200607123






































































































































































































































































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