Peanut




 夢を見た。
 死体の山の上に立っている。
 夕暮れは亡骸の山も自分も何もかもを橙色に染め上げていた。
 信念という言葉の元に、おびただしい血を流し、流させた。髪を振り乱し戦地を駆
け回る様は、もはや人ならざる物である。
 とても鮮明な光景。 

 それはかつての自分だった。


 ぎゃいぎゃいと騒がしい。耳元で誰かが騒ぎ立てている。
(…うるせえ)
 いつの間に寝入っていたのだろう。
 覚醒しきらぬままぼんやりと目を開けた。
 ボロい木製の天井。所々に雨漏りの染みができている。
 ああ、これは万事屋の天井だ、よく見慣れた。
 むくりと上半身を起こすと、
「銀ちゃん!」
「銀さん」
神楽と新八がバタバタと駆け寄ってきた。
「ちょっと。君たちうるさいよ?おちおち昼寝もできねえ」
 ソファーに胡坐をかいて座り直すと、ふぁあと欠伸をしながら背伸びをする。
「神楽ちゃん酷いんですよ」
「うるさいネ。ネガネ」
 腰に手を当てて怒る新八に神楽はぷいっとそっぽを向いた。完全に子供の喧嘩
だ。銀時はやれやれと大袈裟に嘆息を漏らす。
「雀ちゃんたち分かったから順を追って話しなさい」
 ずいっと詰め寄る二人に、頭を掻きながら言った。世の中の親ってのはこんな気
持ちなのだろうか。尊敬に値する。
「神楽ちゃんが柿の種ばっかり食べるんですよ!!ピーナッツばっかり残るんで
す!」
「小姑か。好きに食わせろヨロシ」
 きーきー言い合う新八と神楽に脱力する。
「お前らは平和だなあ」
 しみじみしながら二人の頭を撫で回すと、二人に冷ややかな眼差しを返された。
「銀さんに言われたくないですよ。ぐーたら雇い主のくせに」
 新八は体を捩って銀時の掌から逃れると、頬を膨らませた。
「ソウネ。銀ちゃんの稼ぎが良かったら柿ピー食い放題ネ」
 神楽が言い捨てると、新八が「そうだ!そうだ!」と同調する。
 雲行きが怪しくなってきた。
 何だ、何だ。都合の良い時だけ仲の宜しいこと。
「俺ピーナッツ大好き」
 そそくさとその場を逃れようとすると、
「逃げる気だ!?」
二人がわらわらとついて来る。振り返ってみて、かるがもの親子みたいだと小さく笑
う。
(平和だな)
「ねみー」
 銀時は両手を高く掲げて伸びをする。大きな欠伸をすると右目からうっすら涙が
出た。
 その時である。
「悪い夢見ました?」
 くいっと着物の袖を掴まれた。新八が気遣わしげな顔で見上げている。
「なんで?」
「寝てた時何だか唸ってました」
 先ほどとは打って変わった表情に、銀時は眉尻を上げた。きゅっと口を結ぶ新八
の頬を人差し指で突っついて、にやっと笑う。
「何ですか!人が心配してやってんのに!!」
 茶化されたと感じたのだろう新八は頬を押さえながら抗議する。
「悪い夢じゃなかった。ま、そんないいもんでもねえけどな」
 随分遠くまで来たもんだ。
 銀時は大口を開けて、柿の種の袋からピーナッツを流し込む。口いっぱいに頬張
ってぼりぼりと音を立てて咀嚼した。本当にピーナッツしか残されていない。
「鼻血でますよ」
「ふぁいしょうぶだよ」
 もそもそ口篭りながら言うと、神楽が腕に巻きついてくる。
「ソネ。銀ちゃん丈夫なサムライよ」
 ふと窓の外を見ると、いつの間にか太陽は傾いていた。橙色に空は染まってい
る。
(あー。遠くて近いんだな。きっと)
 夕餉の時間だ。美味しい飯が食いたい。 








20060717




























































































































































































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