かわいい人なの





 朝食の後片付けをしていると、銀時がぬぼっと現れた。髪の毛はボサボサ、甚平
は寝乱れて胸が肌蹴てしまっている。何ともだらしない格好だ。
 今朝は神楽と二人で食事を済ませた。銀時は何度呼んでも自室から出て来なか
ったのだ。
 それもそのはずだ。昨夜は随分飲んだらしく、遅い時間に帰ってきた。だから起き
出してくるのは昼前に違いない。そう予想していたが時計を見るとまだ九時だ。意
外に早い起床である。
「おはようございます」
 テーブルを拭きながら、銀時に挨拶をした。
「おはよ。新ちゃんお水ちょーだい」
 しゃがれた声である。銀時は頭を押さえながらテーブルに着いた。
「はいはい」
 世話の焼ける大人だ。苦笑しながらも台所へ行って水を汲んできてやる。
「はい、お水」
「お、ありがとなー。あー頭いってぇ」
 銀時はコップを受け取りながら顔を顰めた。
「二日酔いになるまで飲まなきゃいいのに」
「もう飲まねえ。俺は今後一切酒は飲まねえよ」
「それ五日前にも聞きましたけど」
 頭を抱えながらブツブツ喋る銀時に呆れた眼差しを向ける。
「もう酒飽きた!ほんとーに飽きた!真っ平だよ。ああもう銀さんお酒だいっ嫌
い!」
「そーですか」
 言葉半分に受け取りながら、適当な相槌を打つ。銀時は水をぐびぐび一気に飲み
干すとテーブルに突っ伏した。時々何やら唸り声を発している。
(今はあんなでもちょっと良くなるとすぐ忘れちゃうんだからな。あんな大人にはなり
たくないな)
 今日は依頼が入っていなくて良かった。
(まあ依頼のある日の方がすくないけど。銀さん使い物にならないしな)
 銀時を横目で見る。ぐったりとしている姿に思わず嘆息がもれる。
 台所へ行き、朝食の残りの味噌汁を温め直す。
「はい、銀さん。お味噌汁。二日酔いにはいいですよ」
 銀時の傍らに味噌汁を置いて、目の前の席に座った。
「おお。ありがたいね。新八君はいいお嫁さんになるよ」
「はいはい。どうも。それにしても酔っ払ってくだを巻くのだけはやめて下さいよ。本
当に迷惑なんですけど」
「そんなことした?銀さん覚えてない」
 銀時は味噌汁を啜りながら肩を竦め首を傾げる仕草をした。
「や、可愛くないですから」
「俺、お前の部屋行った?」
「いえ、夜中に玄関ですごい物音がしたんで見に行ったら銀さんがベロベロに酔っ
払ってて――」
「酔っ払ってて?」
 頬杖をついて昨夜のことを思い出しながら喋る。銀時は空になったお椀をテーブ
ルに置くと、少し身を乗り出した。
「足元ふらふらしてたんで部屋まで連れて行こうと思って僕が肩を貸したんですけ
ど」
 そこまで言って少し言葉に詰まる。
「それでどうしたのよ?」
 銀時がじれったそうに続きを促した。
「可愛い可愛いって連発しながら僕に抱きついてきたんですよ。んもーね、またキャ
バクラで飲んでたんですか?お店のおネエちゃんと間違えたんですか?」
「あー…んなこと言った?俺」
「言いましたよ。覚えてないんですか?それに」
「全然覚えてねえ。あちゃーだな」
 茶化した口調で言うと、銀時は思い当たる節があるのかボサボサの頭を掻いた。
 それに――。
 その後「好きだああー」と耳元で叫ばれて、思わずうるさいと銀時の頭を一発殴っ
てやったのだ。それからどうにかこうにか銀時を部屋まで運び入れた。
 それにしても銀さんには好いた相手がいるらしい。
(全然知らなかった…)
「さっきそれにって言いかけたよな?。俺他にも何か言ってた?」
 銀時が頭を抱えながらこちらを見る。思わずぶんぶんと顔を左右に振った。
「い、いいえ。何も!銀さんすぐにぐーすか寝ちゃいましたもん」
「そか」
 そう言って銀時は顔を背けて頬杖をつく。そしてそれきり押し黙ってしまった。微妙
な空気が流れる。声を発しづらい雰囲気だ。両膝をピッタリつけて畏まる。
「――まあでも…」
「え?」
「多分、それ間違ってねえわ」
 銀時が不意にもらした。
 思わず目を瞠る。そっぽを向く銀時の、その横顔をまじまじと見つめる。
「あ、あ、あの」
「何?」
「あ、いや。何でもないです」
 こちらにちらりと視線を移した銀時に、咄嗟に俯いてしまった。
「何だよ?」
「…僕、かわいいですか?」
「んん?」
「あ、あんまり男がかわいいって言われても嬉しくないんですけど」
 がばっと顔を上げて、大袈裟に頬を膨らませてみせた。銀時が少し驚いて眉尻を
上げる。そして、
「かわいいよ。かわいい、かわいい。もうすげーかわいい」
カカカと笑いながら、徐に手を伸ばした。そして頭をがしゃがしゃと乱暴に撫でられ
る。
 それはどういう意味のかわいいなんですか?
(とは聞けない)
 両手で顔を覆う。
「おーい。どうした?新八よい」
 銀時が身を乗り出して、覗き込んできた。
「うるさい。酔っ払い」
「なんだとお!?言い返す言葉がねえじゃねえか」
 銀時がはははと笑う。
(恥ずかしくて顔を上げられない)
 耳が熱い。自分の顔は真っ赤になっているに違いない。
 だって好きだって。言ったんだ。
「なんてこった…これからどうしよう」
「んあ?何がだ?」
 溜息混じりで呟くと銀時がのん気な声で問うた。
「何でもないです」
(嬉しいとか思っちゃったよ。オイ)









20061002



































































































































































































































































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